かなりドタバタなご奉公でしたが、ヴィンセントくんは、「日本からやってきたお坊さんは、何の躊躇もなく僕のためになろうとしてくれました。そして御題目を僕のためにお唱えしてくれました。とても嬉しかったです。また、ロザリオを手放すことも、御題目をお唱えすることも、自分のためになるのだと分かり抵抗はありませんでした。そして、御題目をお唱えすれば仏様とつながることができ、仏様の力をもらったり、僕の病気を治してもらったりできると心から信じられたのです」と語っています。
以来、毎日の朝参詣で御導師がご祈願をあげて下さいました。そして、ひと月半後、私と福本容子さん(現:清容師)、ネグロス島のリーダー・ネスターさんと一緒にご弘通御本尊をお供してヴァルデ宅に伺ったところ、壁には手作りのお厨子が設置されていました。その気持ちが嬉しかったです。
それから、ひと月半に1回の渡航のたびにお助行に伺いました。「伺う」と言っても、ひと月半に1回、長くてもたった1時間です。私たちがいない時間の方が圧倒的に長いのです。ただでさえ、原因がよく分からず、医療にかかることもできず、治る見込みもない、という絶望的な状況です。また、慣れてない御題目を毎日お唱えするためにはそれなりに気持ちが必要です。ご信心を疑う気持ちが湧いてきたり、途中でだれたりしてもおかしくありません。
そんな状況が心配で、2回目のお助行の際、少々前のめりかとも思いましたが、「身体回復のご利益はフィリピンの困っている人たちを御題目でお救いするご奉公を手伝うためだから、ご利益を頂いたら必ずご奉公すると御宝前に誓いながらご祈願をしましょう。君には想像を超える大きな未来が待ってます」とお伝えしたことがあります。私たちが英語で伝えるメッセージを、お姉さんがタガログ語に訳して彼に伝えてくれています。お母さんとお姉さんが「あなた、ちゃんと分かったね?」と尋ね、静かにうなづく彼の姿が印象的でした。
伝わったかどうか心配ではありましたが、ありがたいことに、彼は「大きな意味(功徳)があり、簡単にお唱えできる御題目口唱を続けることはまったく苦になりませんでした。御題目をお唱えすれば、仏様に近づくことができると思っていたので、お唱えするのはいつも楽しかったです。家族も毎日ではなかったけど、週に2、3回は絶対にお看経をさせていただいていました。」と語っています。
ネガティブになることはなかったそうです。ただ、一番つらかったのは、彼の身体のことを心配する両親の姿を見ることだったそうです。
そんな中、コロナ禍に突入し、渡航ができなくなりました。ご信心に慣れていないヴァルデ家がとても心配だったのですが、ちょうど日本でご信心の研修を終えた同島アルタバス出身のレオナルド・マティリンさんが弟のレオくんと、バイクで往復6時間の道のりを毎週お助行に通ってくれたのです。
そして、8月頃、ヴィンセントくんの姉、アリッサさんから驚くような連絡があったのです。「ヴィンセントが立ちました」。
ある日ヴィンセントくんがふと、独りで立ってみようと思い立ったそうです。ご両親に助けてもらいながら立ちあがろうとすると、なんと立ち上がって少しだけ伝い歩きができたのです。
「それはもう本当に嬉しかったです。そのような瞬間が訪れることなど一生ないと思っていたので、とても嬉しくて、ありがたいと感謝しました。」
以来、彼のリハビリ生活が始まります。依然としてまったくお助行に伺えず、さらに、フィリピンにおけるコロナ禍の規制が強化され、地域間の移動も難しくなりレオンくんもお助行に行けなくなってしまいました。
しかし、彼は毎日の御題目口唱とリハビリを続け、2020年末には普通に生活し友達と遊べるまでに回復しました。
御利益を頂いたヴィンセントくんはこのように語っています。
「御題目をお唱えしたお陰で、僕の病気が早く治ったのだと信じています。自分の中にある悪(罪障)を消滅して頂こうとしましたし、あらたに悪いことをしないよう一生懸命心がけるようになりました。また、御講師から激励のメッセージを頂いて、すごく嬉しかったです。苦しい時を乗り越える力を下さいましたし、決して諦めないという希望を与えてくれました。
僕の御本尊様への僕の思いは、純粋な愛です。そして、心から御本尊様を大切にするとお約束します。
今、困っている人がいたら、『強い心でいて下さい、希望を捨てないで下さい、人生の素晴らしい部分に目を向け続けて下さい。御題目口唱を続け、祈り続けて下さい。僕らは必ず乗り越えられます。』と言いたいです。
これから先の人生で、もし同じように苦しんでいる人がいたら進んで役に立ちたいと思います。病気を抱えて生きるということがどれほど辛いことか、彼らの気持ちが僕にはよく分かりますから、いつでも力になりたいと願っています。
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